知床世界自然遺産地域の管理に関する3つの課題:海域管理、河川工作物対策、シカ対策に加えて、ヒグマ対策とエコツーリズム戦略の5つの大きな課題については、平成23年度(2010年4月〜2011年3月)までの事業でほぼ目途がついたと言える。
平成24年度は、海域に関しては、温暖化に伴う海氷の減少傾向と宗谷暖流の勢力強化による魚種の転換がより明らかになってきたことが挙げられる。海獣類ではゴマフアザラシとトドの増加が引き続いている。海鳥類では、ケイマフリの保全に向けて沿岸漁業と観光産業との関係改善が定着した。
河川工作物対策による河川生態系の復元はモニタリング結果からも明確に示され、サケ科魚類の遡上数、自然産卵数ともに増加している。ダムのスリット化工法に関しては、ダム上流・下流の工事の在り方について課題がさらに明らかになった。
陸上生態系に関しては、シカの個体数管理の成功に伴い、植生復元の目途がつくと共に、シカの個体群管理法について、引き続き新たな手法が開発されつつある。それらは結果として河川工作物対策と同様、全国のシカ対策に役立っている。
長年の課題であったシマフクロウとオジロワシの保護については、現在の知床および北海道の収容力に見合った営巣数に回復したとも考えることが可能となった。
ヒグマについては従来法より精度の高い生息個体数の推定を行う努力が行われており「知床半島ヒグマ管理方針」がさらに充実した役割を果たすことが期待される。
エコツーリズムについてはヒグマへの餌やり対策、オジロワシ・オオワシ・シマフクロウへの観光目的の給餌、および知床岬への動力船による上陸などについてのルール作りなどの課題があるが、観光レクリエーション利用は回復傾向にあり、安定的に維持されることが期待される。
知床の保全に関する国際的な交流としては、2005年、知床が世界遺産になった年にイエローストーン国立公園とシンポジウムが行われ、『世界自然遺産 知床とイエローストーン』(知床財団,2006)としてとりまとめられている。2015年には2度目のシンポジウムが企画されており、知床での10年間の世界遺産管理が検証され、マネジメントの理論と実際の一層の向上が期待される。
知床科学委の提案により、2009年に締結された「日露隣接地域生態系保全プログラム」に基づいて、2009年と2011年に行われたシンポジウムの成果が『オホーツクの生態系とその保全』として北大出版会より2013年2月に出版された。本書には海洋物理化学、魚類・漁業、海生哺乳類や鳥類などに関する日露の成果が取りまとめられ、今後の方針が議論されている。また、このプログラムの一環として、シホテアリン自然遺産地域や北方四島の保護区との交流が進められている。
現在日本全国各地において、シカ・イノシシ・サルなどの増加による農林業被害が大きな問題になっている。これは野生動物マネジメントに関するシステム作りや人材養成をこれまで怠ってきたためである。唯一知床では、知床財団職員によってシカの個体数管理やヒグマの対策が高度なシステムと銃の扱いを含む高度な技術によって行われている。「知床自然大学院大学」構想では、その野生動物管理の理論と実際の成果を生かすことも目的として実現に向けて動き始めた。
(大泰司紀之委員長)