ホーム > 知床白書 > 知床世界自然遺産地域年次報告書(平成24年度)

 知床白書    Shiretoko White Paper

IV 知床世界自然遺産地域の生態系と生物多様性の現況と評価

1. 陸上生態系

2. 河川生態系

1.陸上生態系

(4)エゾシカ

自然植生
 知床半島の植生は高密度で生息するエゾシカの採食によって大きな影響を被っている。平成23年度、24年度に実施された広域採食圧調査によると、低標高域では依然として採食圧が強い傾向に変化はなく、全般に半島基部から先端部に行くにつれて大きくなるとともに、越冬地としてシカが集中する傾向が強い斜里側で影響が著しい。一方、より高標高域にも侵出が見られるもののその状況は不均一になりやすく、沢沿いの雪田等で採食痕が頻繁に確認されている。
 半島各地区で実施されているエゾシカの排除、ならびに捕獲事業による植生の回復状況としては、小規模防鹿柵でシカを排除した知床岬の海岸草原群落において在来種が回復しているとともに、捕獲事業によってシカ密度が低下している柵外においても、イネ科や一部の在来種の被度、植物高などに回復傾向が見られている。実験的な捕獲事業が進められている斜里側の岩尾別地区と羅臼側のルサ・相泊地区では今後の植生回復が期待される。
 以上より、知床世界自然遺産地域においては依然としてエゾシカの採食による影響は大きく、高標高域への侵出も確認されていることから、今後とも注意深くモニタリングを継続する必要があることには変化がない。植生の回復を目指して防鹿柵を設けたり捕獲した場合、低標高域の草本植生は比較的速やかに反応して回復傾向が確認できることが明らかとなり、その結果をもとに、ユネスコが求めているシカ個体数調整事業の進捗状況を判断する植生指標の開発に取り組んでいる。(石川幸男委員)

密度操作実験によるシカの現況と展望
 密度操作実験を実施した知床岬,ルサ−相泊,幌別−岩尾別の3地区の2012年度(2013年2月20〜21日実施)のヘリコプターセンサスを2011年冬季のセンサス結果と比較すると,それぞれの確認個体数は、知床岬地区で150頭(2011年比73%、-56頭)、ルサ−相泊地区は215頭(2011年比76%、-69頭)。幌別−岩尾別地区で314頭(2011年比24%、-989頭)であり,いずれも減少がみられている。
 仕切り柵を設置してある知床岬先端部では56頭が観察された。センサス後に仕切り柵を用いた2回の捕獲で32頭が間引かれたので,残存個体は24頭となり,当面の目標であった5頭/km2を達成し,低密度を維持して植生を回復させる段階に入った。
 ルサ―相泊では多雪による道路閉鎖があったためシャープシューティング(SS)の機会が限られ,1〜3月に4回実施して27頭の捕獲にとどまったが,4月には2回実施して34頭を捕獲した。また囲いわなでの捕獲は17頭で,合計78頭が捕獲された。2013年2月時点の生息数(密度)は215頭/22.38km2(9.6頭/km2)であるが,冬季に積雪による道路閉鎖がなく,効率の良い4月のSSを加えれば低密度に誘導することが可能である。
 幌別―岩尾別地区では,流し猟式SSを1〜4月に20回実施して168頭を捕獲した。岩尾別川河口に新設した囲いわなでは、わな稼働日数62日間(道路閉鎖等による休止期間を除くと55日間)で181頭を捕獲した。また無雪期の6月に4回36頭,11〜12月に7回33頭を捕獲したが,草が繁茂しており捕獲条件と捕獲効率が悪いので,今後は実施しない。ヘリセンサス以前までの759頭(H23シカ年度+24シカ年度の一部)という大規模な捕獲と2012年冬に積雪が多くて例年になく大量に自然死亡が生じたことにより,2013年2月での生息密度は9.7頭/km2と著しい密度の低下が見られた。見落とし率の変動幅30〜50%を考慮しても,3年以内に2003年レベルまで個体数を減少させるという当初の目標を達成することができた。道路付近のシカの継続的な捕獲により,SSの効率の低下がみられていることから,今後,効率的な捕獲を行うために海岸草地に巨大囲いわなを設置して引き続き,密度の低減を図る。
 以上のように,密度の低減はほぼ達成できるめどが立ったので,今後は低密度をどのように維持するかを検討する必要がある。(梶光一委員)