知床半島には111科895種の維管束植物が分布しており(知床博物館2010)、そのうち277種(31%)が高山植物である(佐藤2007)。知床半島の森林限界は、北部の知床岳周辺で570m、中部の硫黄山〜羅臼岳で1,000〜1,100m、南部の知西別岳〜遠音別岳で770〜1,000mである。高山帯は広くハイマツ帯に覆われているが、積雪の少ない部分には風衝地群落が、雪渓が遅くまで残る場所は雪田群落が形成されている。南岳〜硫黄山の稜線部ならびに遠音別岳〜知西別岳鞍部(スミレ平)の火山性風衝砂礫地には、シレトコスミレ群落が成立する。また、ミクリ沼、二ツ池、知床沼周辺には高層湿原群落が形成され、ラウススゲやミヤマホソコウガイゼキショウなどの希少種が多数生育している。
野営指定地の二ツ池周辺では、登山道の複線化や土壌浸食が認められ、特に湿生植物群落への影響が懸念される。2012年には湿原植生への人為的影響を軽減する目的で、二ツ池キャンプサイト周辺の登山道の付替え工事が行なわれた。また、羅臼・斜里両方向からの羅臼岳への登山道整備(土壌浸食防止工事・道標整備等)が行われた。登山者の増加に伴い、羅臼平周辺でも登山道の浸食が急速に進行している箇所が見られ、土壌浸食の監視と防止対策の強化が必要である。近年、エゾシカの高山帯への侵出が進行している。現在のところエゾシカの食害による高山植生への影響は軽微であるが、継続的なモニタリングが必要である。(工藤岳委員)