○管理の目標
遺産地域は、急峻な山々、切り立つ断崖や流氷等の優れた自然景観を有しているとともに、シマフクロウ、オオワシ等の国際的希少種の重要な繁殖地や越冬地であり、ヒグマが高密度に生息しているなど、日本でも原生的な自然環境が残されている数少ない地域である。遺産地域の管理に当たっては、これらの多様な野生生物を含む原生的な自然環境を後世に引き継いでいくことを目標とする。
特に遺産登録時の世界遺産委員会において評価されたクライテリアix(生態系)及びクライテリアx(生物多様性)について、その価値を維持できるよう管理していく。
(知床世界自然遺産地域管理計画より抜粋。)
○管理に当たって必要な視点
ア.地域との連携・協働
日常的に遺産地域の保全や利用に関わっている地元自治体、関係団体及び地域住民による現場の視点を遺産地域の管理に活かしていくため、各種制度を所管する関係行政機関が、地元自治体、その他の行政機関、関係団体との緊密な連携・協働のもとに管理を行うこととする。
イ.順応的管理
遺産地域の生態系は多種多様な生物により構成されており、こうした複雑で将来予測が不確実な生態系については、順応的に管理を行う必要がある。このため、関係行政機関や地元自治体、関係団体、専門家等が連携してモニタリング・調査研究を行い、関係行政機関はその結果に応じて管理計画やモニタリング・調査研究の見直し等を行い、遺産地域の管理方法を柔軟に見直す。
ウ.陸域及び海域の統合的管理
陸域と海域の生態系を指標するような動植物種の生息・生育状況、植物群落や植生の状況、水質や流況など基盤となる環境の状況を把握しつつ、遺産地域を取り巻く陸域と海域の生態系の連続性、健全性をモニタリングし、自然環境に影響を及ぼすような変化の兆候が認められた場合には、科学的な調査を実施して原因の分析と環境回復に向けた対策を検討し、所要の措置を講じるなど、陸域と海域の生態系の保全と管理を統合的に行う。
エ.地域区分による管理
遺産地域には原生的な自然環境が保存されている地域と観光や漁業活動等の人為的活動と共存する形で自然環境が維持されている地域があり、これらの地域をそれぞれA 地区、B地区に区分して管理を行う。A 地区は、将来にわたり厳正な保護管理を図る地域であり、原則として人手を加えずに自然の推移に委ねることを基本とし、自然環境の保全上支障を及ぼすおそれのある行為は、各種保護制度に基づき厳正に規制する。B 地区は、海域を含み、自然環境の保全と遺産地域の価値を損なわない持続可能な観光や漁業活動等の利用との両立を図る地域であることから、必要に応じ一定の行為を規制し、遺産地域の自然環境の保全を図る。
オ.一次産業との両立
流氷下のアイスアルジーや、流氷形成時の鉛直混合により作られる中層水がもたらす植物プランクトンの大増殖により知床周辺海域の生物資源は、他の海域に比べ非常に豊かである。知床周辺の海の豊かさの恩恵を受けている水産業にあっては、遺産地域に生息する野生動物との共存に配慮しながら、水産資源の持続可能な利用を図る。
カ.レクリエーション利用と自然環境の保全の両立
遺産地域の原生的な自然環境を将来にわたり保全し、人々に大きな感銘をもたらし続けることを前提として、観光、自然探勝、登山、釣り等の利用は、自然環境に支障を及ぼすことのないよう適正に行うこととする。
キ.広域的な視点による管理
遺産地域を適切に管理していくため、日露の隣接地域や知床半島基部等の遺産地域の生態系と共通性や連続性を有する遺産地域の隣接地域や、気候変動等の遺産地域の生態系に重大な影響をおよぼす地球規模の課題を視野に入れつつ、管理を行う。
(知床世界自然遺産地域管理計画より抜粋。)