ホーム > 知床白書 > 知床世界自然遺産地域年次報告書(平成24年度)

 知床白書    Shiretoko White Paper

II 知床世界自然遺産地域の課題

1. 生態系に関する課題

2. 利用に関する課題

3. 管理に関する課題

4. 地域社会に関する課題

II 知床世界自然遺産地域の課題

1.生態系に関する課題

○気候変動の影響
 知床半島とその周辺海域は、北半球における海氷の南限とされ、海氷中のアイスアルジー(氷に付着した藻類)や、海氷生成による鉛直混合によってもたらされる栄養塩などの循環が支える植物プランクトンの大増殖を基礎とした食物網を通して、多種多様な生物が生息・生育する地域である。このように知床の海洋生態系は季節海氷による大きな影響を受けているが、気候変動に伴い、オホーツク海の風上の気温はこの50年で2℃上昇し、遺産地域内海域での海氷の観測日数及び流入量とも減少傾向にある。また、海氷生成量の減少に伴い重い水の潜り込みが減少したため、オホーツク海から北太平洋西部まで及ぶ海水の鉛直混合が弱まっていることが示唆されている。
 知床世界自然遺産地域は海洋生態系と陸上生態系の相互関係を顕著に表していることや生物多様性が評価されて世界自然遺産に登録されているが、気候変動はそれらに影響を及ぼすことが懸念されている。

○エゾシカの増加
 エゾシカは、明治時代の大雪や乱獲の影響で、一度は知床半島部においては地域的に絶滅をしたが、1970 年代に入ってから阿寒方面より個体群が移動してきたことにより再分布をしている。その後同半島の主要な越冬地の一つである知床岬での越冬数は1986 年の53 頭から急激に増加し、1998 年には592 頭に達し、以降は増減を繰り返しながらもほぼ同じ数で推移している。他の主要な越冬地でも同様の傾向が見られる。
 エゾシカによる採食圧は、越冬地を中心とした樹皮食いによる特定樹種の激減と更新不良、林床植生の現存量低下と多様性の減少、遺産地域の特徴的な植生である海岸性の植生群落とそれに含まれる希少植物の減少など、知床世界自然遺産地域の環境に様々な影響をもたらしている。今後、現在のエゾシカの高密度状態が長期化する場合、希少植物種の地域的な絶滅、急傾斜地の土壌浸食等が懸念される。