遺産地域の河川では、サケ科魚類が高い密度で生息している。代表的なサケ科魚類としては、カラフトマス、シロザケ、サクラマス、オショロコマで、ヒグマやシマフクロウ、オオワシ、オジロワシなどの食物連鎖の頂点に位置する大型哺乳類、猛禽類の重要な餌資源にもなっており、海起源の物質を陸上生態系へ運び、その生産力と生物多様性を高めている。
河川工作物WGで改良が適当と判断された5河川13基のダムのうち、羅臼川の砂防ダム改良工事を残して、すべてのダムの改良が終了した。現在、これらのダムでサケ科魚類の遡上数及び産卵床数のモニタリング調査に入っている。サケ科魚類の遡上数や産卵床数については、河口域での漁業者・ふ化事業者による捕獲や、回帰尾数そのものの年変動があり、 多い年も少ない年もあるが、総じて、多くのサケ科魚類が上流域で自然産卵するようになっており、ダム改良による遡上効果は明瞭に示されている。
たとえば、ルシャ川において、カラフトマスの第三ダム上流部までの産卵床数の割合は、ダム改良前17%(改良前2ヵ年平均)に比べ、ダム改良後は37%(改良後3ヵ年平均)に上昇。シロザケの第三ダム上流部までの産卵床数の割合は、ダム改良前6%(改良前2ヵ年平均)に比べ、ダム改良後は53%(改良後3ヵ年平均)に上昇している。
また、サシルイ川においては、カラフトマスの第1ダムより上流部までの産卵床数の割合は、ダム改良前69%(うち第2ダムから上流の産卵床の割合は1%)(改良前2ヵ年平均)に比べ、ダム改良後は75%(うち第2ダムから上流の産卵床の割合は53%遡上)(改良後3ヵ年平均)に上昇。シロザケの第1ダムより上流部までの産卵床数の割合は、 ダム改良前7%(うち第2ダムから上流の産卵床の割合は0%)(改良前2ヵ年平均)に比べ、改良後は42%(うち第2ダムから上流の産卵床の割合は20%)(改良後3ヵ年平均)に上昇となっている。
一方、課題としては、
1) ダムの改良によりサケ科魚類の遡上には成功したが、付帯工事としてダム上下流の河道規制、河道整理(安易な礫の河岸寄せ)、ワイヤーによる礫の連結など、不要もしくは河床低下を促進するような工事が実施されている箇所があり、再考を要する。
2) 遡上(移動)には成功しているが、ダム設置区間において産卵環境を復元するには至っていない。特に流路規制や河道整理などにより、流速が大きく、早瀬状の形態が続くなど、水路のような単調な形状になっており、ダム改良に伴う河川生態系への影響についても再考を要する。
3) ウトロ側においてダムが建設された河川において、水温上昇の傾向が認められること、さらにその結果かどうかは不明であるが、オショロコマの若齢級の個体が欠落した河川が認められること、が明らかになっている。温暖化適応の課題も含めて、今後検討が必要である。(中村委員)