知床世界自然遺産地域の管理の目的は、北半球で最も低緯度に位置する季節海氷域における特異な生態系が存在し、海洋と陸上生態系の相互関係の顕著な見本としての価値を維持し、 および海洋及び陸上生態系に生息する多数の希少種を含む多様な生物、およびサケ科魚類、トドや多くの鯨類を含む海棲哺乳類、渡り鳥類、希少な海鳥類の生息地として遺産地域を保全するために、 地域の農林水産業・観光業および地域社会と来訪者の活動との共生を図り、知床世界自然遺産地域の価値を次世代以降に引き継ぐことである。
知床世界自然遺産地域が有する世界自然遺産としての価値を将来にわたって維持していくことを目的として、以下に掲げる既存の各種制度を適正に運用し、陸域から海域にわたる遺産地域全体の一体的な管理を行う。 また、それぞれの制度を所管する行政機関や地元自治体、その他の関係行政機関による緊密な連携・協力と地域住民や関係団体、専門家の幅広い参加・協力などにより、遺産地域の効果的かつより一層質の高い管理が推進されるよう努める。
遺産地域では5つの管理枠組みを用いて管理を実施している。
1)地域との連携・協働による管理
日常的に遺産地域の保全や利用に関わっている地元自治体、関係団体及び地域住民による現場の視点を遺産地域の管理に活かしていくため、連絡調整の場として「知床世界自然遺産地域連絡会議」を設置し、
合意形成を図るとともに緊密な連携・協働のもとに管理を行っている。
2)順応的管理
遺産地域の生態系は複雑で将来予測が不確実であるため、生態系に関するモニタリングや調査研究を実施し、その結果に応じて遺産地域の管理方法を柔軟に見直す必要がある。
このような順応的な管理を進めるため、「知床世界自然遺産地域科学委員会」を設置し、科学的な立場からの助言を得ている。
3)陸域及び海域の統合的管理
遺産地域は海洋生態系と陸上生態系の相互関係、生物の多様性に特徴がある。したがって、遺産地域を取り巻く陸域と海域の生態系の連続性、健全性をモニタリングし、
必要に応じて科学的な調査を実施するなど、陸域と海域の生態系の保全管理を統合的に実施している。また、そのための連携・協力体制の構築、情報交換、人材の育成や確保を図っている。
4)地域区分による管理
原生的な自然環境が保全されている地域(A地区)については、将来にわたり厳正な保護管理を図る地域とし、原則として人手を加えず自然の推移に委ねることを基本としている。
観光や漁業活動等の人為的活動と共存する形で自然環境が維持されている地域(B地区)については、自然環境の保全と遺産地域の価値を損なわない持続可能な観光や漁業活動等の利用との両立を図ることとし、地区に応じた管理を実施している。
5)広域的な視点による管理
遺産地域の生態系と共通性や連続性を有する遺産地域の隣接地域や、遺産地域の生態系に影響を及ぼす気候変動等の地球規模の課題を視野に入れつつ、管理を行っている。