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 知床白書    Shiretoko White Paper

II 知床世界自然遺産地域の課題

1. 生態系に関する課題

2. 利用に関する課題

3. 管理に関する課題

4. 地域社会に関する課題

II 知床世界自然遺産地域の課題

1. 生態系に関する課題

○気候変動の影響

知床半島とその周辺海域は、北半球における海氷の南限とされ、海氷中のアイスアルジー(氷に付着した藻類)や、海氷生成による鉛直混合によってもたらされる栄養塩などの循環が支える植物プランクトンの大増殖を基礎とした食物網を通して、多種多様な生物が生息・生育する地域である。 このように知床の海洋生態系は季節海氷による大きな影響を受けているが、地球温暖化を含む気候変動に伴い、オホーツク海の風上の気温はこの50年で2℃上昇し、遺産地域内海域での海氷の観測日数及び流入量とも減少傾向にある。 また、海氷生成量の減少に伴い重い水の潜り込みが減少したため、オホーツク海から北太平洋西部まで及ぶ海水の鉛直混合が弱まっていることが示唆されている。

このため、気象、海象状況の変化と海洋生態系の保全に資する指標種や気候変動に脆弱な様々な種などより得られた知見を照合することにより、地球温暖化を含む気候変動の監視と遺産地域内海域の保護管理等を一体化していく必要がある。

○エゾシカの増加

エゾシカは、明治時代の大雪や乱獲の影響で一度は知床半島部を含む局所的な絶滅をしたが、知床半島では1970年代に入ってから阿寒方面より移動してきた個体群により再分布した。 同半島の主要な越冬地の一つである知床岬での越冬数カウントは1986年の53頭から急激に増加し、1998年に592頭に達した以降は増減を繰り返しながら高密度で推移している。他の主要な越冬地でも同様な高密度状態の長期化が見られる。

高密度のエゾシカによる採食圧は知床世界自然遺産地域環境に様々な影響をもたらしている。越冬地を中心とした樹皮食いによる特定樹種の激減と更新不良、林床植生の現存量低下と多様性の減少、そして遺産地域の特徴的な植生である海岸性の植生群落とそれに含まれる希少植物の減少などである。 エゾシカの高密度状態がさらに長期化する場合、希少植物種や個体群の絶滅、高山植生への影響、急傾斜地の土壌浸食等が懸念されている。