ウトロ海域部会に参加して |
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公益財団法人日本交通公社 観光調査部長
適正利用・エコツーリズムWG ウトロ海域部会 委員
寺崎 竜雄
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最初の集まりの時、環境省から「Win-Win」の関係を作りましょうという発言があったことを印象深く覚えています。「地域資源の立場」において、“貴重な資源や独自の文化が傷つけられたり失われたりすることなく存在し続けること”。つまり、ケイマフリの生育環境が良好に保たれること。そして、「地域経済の立場」において、“観光産業が健全に経営していけるだけの収入が得られること”。つまり、観光船事業者等の売上げが確保されること。この対極にあると思われがちな二つの立場の主張がともに成り立つようにしましょうというメッセージです。加えて、この事業では「観光客の立場」として重要な、“その観光地には満足できる体験や求める体験があること”にも配慮し、アンケート調査を通して来訪者の意識と行動の分析も努めました。「Win-Win-Win」の関係を目指したのです。
理屈ではわかっていることですが、感情をもつ人間が集まり、相手の立場を気にかけながら方向性をみいだし、できることから行動に移すということは、そうたやすいことではありません。しかしながら、ウトロ海域部会の活動の結果、知床の自然観光の重要性に対する関係者間の理解の深化、観光事業者のケイマフリ保全意識の増大という具体的な成果が得られました。海域部会に参画する観光船やカヌー事業に取り組む観光関係者、海鳥の研究者をはじめとする資源の保全に関わる方々、漁協関係者、それぞれの誇りと知床の自然に対する強い思いが、このような成果を導いたのだと思います。環境省と当事業の受託機関が、ひとつひとつの作業やコミュニケーションを丁寧にすすめたことも特筆すべきでしょう。
また、当部会が前向きに運営された要因として、科学的なデータをもとに議論が進められたということも見逃せません。ケイマフリの生態や個体数などの調査、前述した来訪者アンケート調査。実態をあいまいに表現せず、客観データで示したことにより、話し合いが具体化しました。ウトロ海域部会の取り組みは、自然地域の協働型管理の模範例として、おおいに評価されるべきケースだといえます。
さて、協働型管理の基本的な枠組みはできたといえますが、この活動を継続していくことこそ重要です。できることなら、地元の関係者による自走的活動を目指して欲しいものです。そのための有効な手段は、「持続可能性指標」の活用だと考えます。簡単に言うと、地域経済、観光マーケット、観光サービス、環境、地域社会や文化、などの状態を端的に示す指標を設定して、それらを継続的に測定し、指標の値の変化を評価し、その結果に応じた対応をおこなうという一連の作業です。国外の自然観光地で活用が始まったと聞いていますが、国内ではまだ例がありません。協働型管理の先駆例として、ぜひチャレンジされたらいかがでしょうか。
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(平成25年3月 委員・寺崎 竜雄)
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