ウトロ海域部会の3年間の成果を讃えて |
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北海道大学大学院水産科学研究院 教授
知床世界自然遺産地域科学委員会 委員
同海域WG 座長
同ウトロ海域部会 委員
桜井 泰憲 |
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知床世界自然遺産地域科学委員会の海域ワーキンググループの座長として、ウトロ海域部会に参加してきました。知床世界自然遺産地域の海域の保護管理に向けて、「多利用型統合的海域管理計画」が平成19年に策定されました。その目的は、「海洋生態系の保全と安定的な水産資源の利用の両立」です。平成25年度からは第2期の管理計画のもとで、知床の海の生物多様性を保全し、そこからの水産資源の恵み、そして豊かな自然と野生生物の営みがもたらす多様な海洋リクリエーションの場を利用する生態系サービスとしての価値を、それぞれの立場から享受できる仕組みも必要となってきました。つまり、豊かな知床の海や半島全体の自然、そして多様な生き物たちとも、私たち人間が賢く、しかも持続的に付き合って行くことこそ、知床世界自然遺産の価値を高めることになります。
ウトロ海域部会が発足して3年間、敷田麻実北大教授の座長のもとで、知床半島で繁殖する海鳥・ケイマフリの保全と沿岸漁業、観光産業との関係を、どのように作って行くのか、真剣に取り組んできました。これには、海鳥の専門家、観光事業者、漁業組合、そして環境省などが互いの立場から、互いにウィンウィンの関係を目指した議論、行動が実施されています。ケイマフリが安心に繁殖できる場の提供こそ、それが利害関係の異なる方にとってもプラスになるという目標と成果は、まさにワイズユーズの成功例と高く評価します。これを先導されてきました敷田座長、ケイマフリの保護の研究を進めてきた福田佳弘氏にも、敬意を表します。
しかし、この事業は、ようやく一歩を踏みだしたばかりです。海鳥の保全と漁業や観光業の安定的な営みは、未来永劫に続きます。海を守り、命を守る、そしてその恩恵を受け続けるためには、まだまだ多様な方が参加した取り組みが必要です。もし、ケイマフリが乱舞する海が知床から消滅すれば、私たちは知床の海からの恵みすらもらえないことになります。このことを、私たちは絶対に忘れてはいけません。
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(平成25年3月 委員・桜井 泰憲)
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